超臨界CO₂の受託試験でできること|試験内容とご相談前の準備
「この素材から、超臨界CO₂で目的の成分を分離できるのか」。装置の導入や本格的な検討に進む前に、まず小スケールで試して確かめたい、というご相談は少なくありません。
アイテックでは、超臨界CO₂を使った抽出、洗浄、乾燥などの受託試験を行っています。受託試験では、目的成分を抽出できるかに加えて、温度、圧力、CO₂流量、処理時間、エントレーナーの要否、抽出物の回収方法などを確認します。
この記事では、超臨界CO₂の受託試験で確認できること、試験の種類と使う試験機、ご相談前に整理しておくとスムーズな情報をご紹介します。
超臨界CO₂抽出とは
二酸化炭素は、温度31.1℃、圧力約7.4MPa以上で、液体と気体の区別がない「超臨界状態」になります。
超臨界CO₂は、液体のような溶解性と、気体のような拡散性を併せ持つことが特徴です。圧力や温度を変えることで密度や溶解性を調整できるため、抽出、洗浄、乾燥、染色、含浸などのプロセスに利用されています。
抽出後に圧力を下げると、CO₂は気体となり、溶けていた成分を分離できます。CO₂自体は気化して除去されるため、有機溶媒を使う従来のプロセスで必要だった溶媒除去の工程を省ける可能性があります。
超臨界CO₂の性質や抽出プロセスについては、「超臨界CO₂とは?」のページでも詳しく紹介しています。
受託試験で確認できること

試料と目的成分が同じであっても、超臨界CO₂による抽出の結果は条件によって変わります。たとえば、温度、圧力、流量、処理時間などによって、抽出効率や成分の選択性が変わります。
超臨界CO₂を用いた抽出研究でも、対象物によって温度・圧力と抽出率の関係は異なり、圧力を上げれば常に抽出率が高くなるとは限らないことが報告されています。
そのため、本格的な検討に入る前に、受託試験で次の点を確認します。
- 超臨界CO₂で目的成分を抽出できるか
- どの温度・圧力条件が適しているか
- 目的成分以外の成分がどの程度含まれるか
- 必要なCO₂流量と処理時間
- エントレーナーを加える必要があるか
- 処理後の試料にどのような変化があるか
- 想定外の現象が起きないか
実際の試験条件は、試料と目的をうかがったうえで、打ち合わせを通じて一緒に決めていきます。
試験の種類と使う試験機
アイテックには容量の異なる試験機が複数あり、試料の量や試験目的、試料の性状に合わせて使い分けています。ここでは、それぞれの試験機でどんな試験ができるかを簡単にご紹介します。
少量の試料で、抽出できるか・どの条件がよいかを確かめる(400mL・160mLの試験機)
超臨界CO₂抽出ラボスケール試験機を使い、限られた量の試料で、目的成分を抽出できるかや、温度・圧力の違いによる結果を確認します。エタノールなどのエントレーナーを加えた試験も行えます。最初の試験として選ばれることの多い試験機です。試料の種類や温度・圧力によっては、160mL圧力容器や小型バッチ管が適することもあります。
大きな固形材料や多めの試料を処理する(6Lの試験機)
大きな内径が必要な固形材料を処理する場合、試料の量が多い場合、撹拌を行う場合、あるいは400mLでの試験結果を踏まえてスケールアップを検討する場合に、6Lの試験機を用います。
受託製造に向けた実機試験を行う(60Lの試験機)
6Lの試験機で良好な結果が得られ、装置の導入に代えて弊社での定期的な受託製造に移行する場合は、まず60Lの試験機で実機試験を行います。結果がよければ、そのまま60Lの試験機で受託製造を行います。その際は、他の受託製造との兼ね合いでスケジュールの調整が必要です。
どの試験機を使うかは、試料の形状や量、目的をうかがってからご提案します。各試験機の仕様は製品ページをご覧ください。
受託試験で調整する主な条件
温度
温度は、超臨界CO₂の密度と、抽出対象成分の蒸気圧の両方に関係します。同じ密度であれば、温度が高いほど溶解度が増加するものが多くあります。一方で、温度が上がるとCO₂の密度が低下するため、溶解度が逆に減少する場合もあります。温度を上げれば必ず抽出量が増えるとは限らないため、試料の熱安定性も考慮しながら条件を設定します。
圧力
圧力を上げると超臨界CO₂の密度が上がり、多くの場合、溶解度も増加します。ただし、適切な圧力は対象成分によって異なり、実機での装置コストにも関わります。高圧にすればよいと決めつけず、複数の条件で抽出量と選択性を比較します。
CO₂流量と処理時間
CO₂流量は、試料と接触するCO₂の量や物質移動に関係します。流量が少なすぎると抽出に時間がかかり、多すぎるとトータルで必要なCO₂の消費量が増えます。
処理時間ごとの抽出量の増え方から、必要な処理時間を検討できます。途中回収ができるかどうかは、試料の状態や試験方法によります。圧力容器に固体試料を入れる場合は、一度常温・常圧に戻して分取してから処理を再開します。
エントレーナー
エントレーナーとは、超臨界CO₂の溶解性や選択性を変えるために加える補助溶媒です。超臨界CO₂は比較的極性の低い溶媒としての性質を持つため、エタノールやアセトンなどを加えることで、より親水性の高い物質を抽出しやすくなります。
一方で、エントレーナーを使うと、抽出物や処理後の試料から補助溶媒を除去する工程が必要になることがあります。また、選択性も変わるため、不要な成分まで抽出されていないかを確認する必要があります。有機溶媒の使用量を抑えるという超臨界CO₂の利点にも関わるため、使用の必要性も含めて検討します。
これまでに行った試験の例
アイテックでは、これまでにさまざまな素材で超臨界CO₂の試験を行ってきました。たとえば次のような試験があります。
- ポリマー(樹脂)からの有機溶媒の抽出・除去
- 食用油に関する成分の抽出
- 有機溶媒を含むゲル材料の乾燥
- オイルの成分分離
- ゲルなどの材料の超臨界乾燥
- 食材からの香気成分の抽出
- 減圧による粒子生成や発泡
- 水を導入した高濃度炭酸水処理
- 多孔質材料への含浸
- 可視化セルによる目視観察
同じような素材や目的でも、試料の状態によって適した条件は変わります。「似たことはできるか」というご相談の段階からお問い合わせください。
試験で気をつけたいポイント
試験を計画するときに知っておくと、効率よく試験条件を設計できるポイントを3つご紹介します。
1. 素材によって適した温度・圧力は違う
処理に適した温度・圧力は、対象とする成分と材料の組み合わせや、材料の構造によって変わります。必ずしも高温・高圧が有利とは限らず、比較的低い圧力で十分な場合もあります。たとえば、CO₂との相溶性が高いテルペノイドは、圧力をあまり上げる必要がありません。
また、高温にしすぎるとCO₂の密度が下がり、溶解性がかえって落ちることが多いため、80℃までにとどめて試験することが多くあります。ただし超臨界染色では、溶解度が高い条件ではうまく染着しないため、あえて100℃以上に上げて溶解度を下げるケースもあります。
2. 試料によっては詰まりやすい
弊社の試験で閉塞が生じるのは主に超臨界水を用いた試験で、超臨界CO₂の試験で閉塞を起こす材料が持ち込まれるケースは多くありません。ただし、リスクがまったくないわけではありません。たとえば抽出物が多い場合、減圧時の温度低下によって抽出物が凍結し、閉塞することがあります。このような場合は、加熱して解消します。
詰まりのリスクがある試料でも、装填方法や試験方法を変えることで試験できる場合があります。試料の性質を事前にお知らせいただくと、適した方法をご提案しやすくなります。
3. 何を評価するかを先に決めておく
抽出では、目的成分の抽出量を増やすだけでなく、目的成分以外の物質をどう減らすかも課題になります。そのため、試験でどのような情報を得たいか、試料を持ち帰ったあとにどのような分析を行うかを事前に決めておく必要があります。これは抽出だけでなく、洗浄や乾燥でも同様です。
アイテックの社内評価設備は、電子天秤のほかは顕微鏡とXRD(X線回折装置)です。それ以外の分析はお客様側で実施いただきます。
ご相談前に整理しておきたいこと
次の情報をお知らせいただくと、試験方法の検討がスムーズに進みます。
- 試料の形状(固体、粉体、液体、ペースト状など)、量、水分(疎水性成分を抽出する場合は乾燥させておくことが望ましい)
- 固形物の場合はサイズ(圧力容器の径より小さくないと処理できません)、粉末の場合は粒子径(細かいほど抽出効率が高くなります)、液体の場合は水や有機溶媒への溶解性と粘度
- 抽出・除去したい成分と、残したい成分
- 関連文献や、社内での事前試験の情報
- 現在の処理方法と、困っていること
- イメージされている温度、圧力、流量、処理時間
- 試験後に評価したい項目と、分析の方法
- SDSなど安全性に関する情報(毒性、腐食性、爆発性などのある試料はお受けできません)
- 試験後の展望(結果が良好な場合のスケールアップなど)
よくある質問
試料が少量でも試験できますか?
必要な最小量は、何をどのように処理するかによって変わります。試験フローの選び方によって下限を下げられる場合もありますので、試験の具体的な内容を添えてご相談ください。
圧力を上げるほど抽出量は増えますか?
温度が同じであれば、圧力が高いほど一般的に溶解度は増加します。ただし抽出効率には、溶解度のほかに、材料内での物質の拡散速度も関係します。そのため、圧力を上げることがそのまま抽出量の増加に結びつくとは限りません。試験では、温度と圧力を広い範囲で振って比較し、全体の傾向を把握したうえで最適化につなげる進め方をお勧めします。
エントレーナー必ず必要ですか?
エントレーナーは、超臨界CO₂だけでは溶解度が足りない場合に用います。一般的にはエタノールなどの溶媒を使うため、より親水性の高い物質も抽出できるようになりますが、不純物まで抽出されないかに注意が必要です(たとえば植物材料からクロロフィルまで抽出されてしまうなど)。エントレーナーを使うべきか判断がつかない場合は、試験で両方を試して比較用のサンプルを得ることもできます。
CO₂以外の試験もできますか?
アイテックでは、超臨界CO₂のほか、液化CO₂、気体CO₂を使った試験も実施できます。CO₂以外では、超臨界水、亜臨界水、その他の溶媒にも対応しています。ドライアイス洗浄の受託試験も行っています。目的によっては他の方法が適している場合もありますので、ご相談ください。
まずは試料と目的をお聞かせください
「超臨界CO₂で抽出や乾燥ができるか確認したい」「有機溶媒を使わない方法を検討したい」「高温で変性する物質を処理したい」といったご要望がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
試料の形状・量・水分、目的成分、現在の処理方法、評価したい項目をお知らせいただければ、打ち合わせのうえで試験方法をご提案します。
受託試験の詳細は「受託試験」のページをご覧ください。
参考文献
- 株式会社アイテック「超臨界CO₂抽出ラボスケール試験機」
- 株式会社アイテック「超臨界CO₂とは?」
- 株式会社アイテック「超臨界CO₂ Q&A」
- NIST “Thermophysical Properties of Fluid Systems” https://webbook.nist.gov/chemistry/fluid/
- Gupta, R.B. and Shim, J.J. (2007) Solubility in Supercritical Carbon Dioxide. CRC Press.
- 化学工学会超臨界流体部会『超臨界流体入門』丸善出版
- 後藤元信編『躍進する超臨界流体技術:新しいプロセスの原理とその実用化』コロナ社
